A社という小さな会社と取引が有って、そこの会社は奥さんが社長で旦那さんが副社長。

立場としてはA社の方が上なんだけど、扱っている物の性質上の制約が有り、用が有る時なんかはA社から元我が社(B社)にご足労頂いていた。

社長は控えめに言っても女性らしい人ではなく(性格が)、豪快だけどとても気さくな人。

差し入れなんかもよく頂いていたし、待ち時間なんかが有ると雑談なんかもしていた。


副社長は反対にとても寡黙な人で、顔の作りも手伝ってとても冷たい印象。
仕事の話しかしないのでかなり怖い人だった(でも差し入れはくれた)

ある日社長が来社され、応接室に私が通した時、雑談の流れで

「料理上手で気立ての良い若い嫁さんが欲しい」
と社長が言い出した。

何でも当時色々と仕事が立て込んでいて、とても疲れていたらしい。

それを癒してくれるような可愛い若い嫁さんが欲しい、という事だった。

女性の発言ではないんだけど、あの社長さんなら言うだろうなという感じだった。

社長が帰られた後に同僚とその話をして、

「あの人なら言いそうだよね、それに最近確かにちょっと疲れてる感じしたし」

なんて言ってたんだけど、それを派遣で入ったばかりのシングルのキチママが聞いていた。

有りがちな話なんだけど、キチママは一般的なイメージから旦那さんである副社長を社長と思い込み、さりげなく「A社さん、次はいつ来るんですかね?」とリサーチし、副社長が来社される時に合わせて手作り弁当とお菓子を持参し、副社長に迫ってしまった。

(副社長は冷たく怖い印象だけど、どっちかと言うとイケメンに分類されるであろう顔)

「A社さん来ました」という声に自発的にお茶出しに動き、まずは弁当とお菓子を渡そうとするも断られ、次はいきなり抱きついて抱かれようとしたらしい。

副社長は反射的にキチママを突き飛ばしてしまい、キチママはテーブルに頭をぶつけて昏倒、救急車もくる騒ぎに。

病院で「副社長に襲われた!」と主張し警察が呼ばれ、副社長は激怒。

結局キチの証言が矛盾だらけですぐに疑いは晴れキチは即日返品。

「会社の社長だからお金持ち、イケメンだしキチとキチ子のパパになって欲しかった」
というのが理由だったそうだ。


後々には「マンガみたいだね」なんて話のネタにはなったけど、当時は社員一同生きた心地がしなかった。

A社との取引が無くなると、プロジェクトが一つ潰れる事になってしまう状況だったので、副社長は激怒したままだったけど、キチとはいえ取引先に怪我をさせたとあって、社長がすっ飛んできて謝罪をされていたと後から聞いた。

B社も謝り倒して謝罪合戦になったらしく、元凶は即日返品したという事で、その後の取引にも影響は出なかったのが不幸中の幸い。

キチがA社に凸したらなんて危惧もしていたけど、それは無かった様子。

キチのその後は誰も知らない、派遣会社ごと切っちゃったみたいだし。