息子が小3だったころの話。 

転校してきたばかりで、いじめというほどじゃあないのだけれどちょっとからかわれてばかりいた息子はわりといつもイライラしていたんだそうで。 
ある日、同学年・別のクラスの男子がしつこく下級生の女の子を「バカ、バカ!」と怒鳴っているのを見て、普段の鬱憤もあってブチ切れた。 

周囲には他にも大勢の子がいたが、みんな遠巻きにして何もできない。 
息子はその男の子Aに「てめえ、何してんだ」と因縁付けてぶん殴り合い。 
うちの息子は大人しい上に運動音痴なのだが、Aの虚をついたためか向こうが逃げ出すことになった。 
放課後、担任のB先生から電話があってだいたいの顛末を私は知った。


数日後、学校に行く用事があったのだが、そこで担任じゃないC先生・息子・私の三人で立ち話していたところ、Aが自分の母親をひっぱってきてうちの息子を指さし、 
「こいつ、昨日俺が何もしてないのにいきなり殴りかかってきたんだ」と言い放った。 
A母、見るからにガラ悪い。つか、普通の住宅街になぜこんな人がいるのかわからんレベル。 
A母ブチ切れて「ああーん? てめえそんなことしていいと思ってんのかよ、ふざけんじゃねえ!」 
と怒鳴り始めた。 
あっけに取られた息子は言葉がでない。 
A君までもが一緒に怒鳴り始める。 
事情を知らないC先生は、息子にやや厳しい口調で「なんでそういうことをしたの!?」と詰め寄った。 
私がC先生に事情を説明し始めたのだが、パニックになった息子はAに掴みかかった。 
びっくりした私は、普段出ないような大声で、 
「やめろ、息子! 話はB先生から聞いて知っている! おまえは全然悪くない! 
だからその手を離しなさい! おまえが悪くないことは、まわりにいた人間みんなが知ってるから!」 
と叫んだ。 
息子は顔を真っ赤にしていたが、手を離した。 
C先生は、「あっ、事情があったのですね!」とすぐ理解してくれた。 
A母はしばらく目を泳がせていたが、Aの手をひっつかんで何も言わずに消えた。 
C先生は、いつもA母子はトラブルばかり起こしているんだと説明してくれた。

我が家はその学校に来たばかりで何も知らなかったのだが、A母子はその近辺の鼻つまみで、特にAの粗暴さは常識はずれだったため、誰も手出しができなかった。 
いつもクラスの別の子に「バカ」という言葉でからかわれていた息子は、別のクラスのAのことは全然知らなかったのだが、我慢できなくなってAのことをぶちのめしたのだという。 
周囲の子たちがそのいじめの現場にいても手出しができなかったのは、普段のAの凶暴ぶりを知っていたから怖くてどうしようもなかったらしい。 
転校してきたばかりのヒョロヒョロな大人しい子が、二度もAをやっつけたということで息子は周りに一目置かれるようになった。 
A母に恨み骨髄だった他の母親たちからも、感謝された。 
Aはそれからも時々トラブルを起こしていたけれど、うちの息子にだけは手出しはしなかった。 

ただ、息子はあとでこっそり 
「Aがそんなに危ないやつだと知ってたら絶対にあんなことはしなかった。 
俺はクラスで毎日バカと言われて限界だったんだ。 
そこにバカという声が聞こえたので、もう言われているのが自分じゃなくても、 
言っているのが知らない子でも、とにかく殴るのが我慢できなかっただけなんだ」 
と教えてくれた。