カップルじゃないけど異性のストーカー話。
一人暮らしを始めたばっかの時の話を書き捨て。
当時俺は学生。


日当たり&家賃の安さで選んだアパートに入居してすぐ
近所に「自称・ゴミ捨て場管理人おばさん」がいることを知った。
毎朝ゴミ捨て場の前に仁王立ちで、みんなが差し出すゴミ袋をいちいちチェックしては
OKなら「ウム」みたいな感じでうなずき
ちょっとでも気に入らないと怒鳴りつけるということをしてたおばさんだった。

髪はおばさんパーマを通り越してパンチパーマに近く
顔はおばさんを通過しておじさんに果てしなく近づいている感じだった。

たとえば透明ゴミ袋の中に茶色い紙袋に包まれたゴミがあったりすると
「透明袋に入れる意味ないじゃない!」
「誰もアンタのプライバシーになんか興味ないのよ!」
「バカじゃないの、自意識過剰!」
と怒鳴りつけてくる。
男だってガビガビティッシュやその他恥ずかしいものは茶袋とは言わんまでも
コンビニ系の白い不透明な袋に入れたいもんだし
女性ならなおさらじゃないかと思うのだが、とにかくそのおばさんはそういうのを許さなかった。


古雑誌を出す日に快楽天なんか捨てようもんならさあ大変。
その場で怒鳴りつけるだけでは飽き足らず
アパートまでやって来てドアを叩きながら
「この人いやらしい雑誌買って、それを子どもの目につくところに捨てた変態ですー!!」
とわめくという羞恥プレイが待っていた。

同じアパートの住人がその羞恥プレイにまみれるのを目撃した俺は
恐れおののいて、なるべきそのおばさんの逆鱗にふれないよう細心の注意をはらってゴミだしするようになった。
快楽天は捨てずに友達にあげるようにした。

しばらくして、おばさんがゴミ出しのとき俺に話しかけてくるようになった。
話題は天気のこととか、ニュースの話とかで二言三言の会話だったが
キツいおばさんが生理的に苦手な俺は、彼女の機嫌をそこねるのが怖くて
そのたび愛想よく返事していた。
思えばそれがよくなかった。


さらにしばらくして、おばさんがゴミ捨て場で会うたび、やたらボディタッチしてくるようになった。
「一人暮らしって不便でしょう。今度おかず持っていったげる」
「あたしこう見えても料理うまいのよ」
などと言うようにもなった。
俺は「お断りします」の一言が言えず、そのたびヘラヘラ適当に笑っていた。

おばさんが本当におかずを持って俺ん家を訪ねてきたのは、その後ちょっとしてから。
タッパにカレーを詰めておばさんはやってきた。
ヘタレな俺は断りきれず、受け取ってしまった。
さらに数日後、タッパを返す時「おいしかったです」とお世辞まで言ってしまった。

おばさんはエスカレートした。
毎日のように俺の部屋のドアをノックし、俺の部屋に上がりこもうとしてきた。
名目は「掃除してあげる」とか「晩御飯作ってあげる」等々。
一度だけ押しに負けて中に入れてしまったことがあるのだが
断りもなくベッドの上に座る&冷蔵庫勝手にあける&ひきだし開けるのフルコンボで
しかも4時間ほど居座られて地獄だった。

おばさんは俺のベッドの上に
「きゃははは」と笑いながら仰向けに倒れこみ
腹チラ&パンチラしながら俺の方に流し眼をくれるという小技まで使ってきた。
ようやくおばさんを追い出した時俺は疲れきっていた。

そしておばさんはついに
「俺のいない間に雨が降ったら洗濯物をとりこんであげるから」と言って
合鍵まで要求してきた。
さすがの俺もそれは断った。
「おかずももう持って来てくれなくていいです、いままでありがとうございました」
と言った。

次の日からおばさんの復讐がはじまった。

やり口は、まず俺の出したゴミ袋に徹底的にダメ出しして出させない。
無理やり置いていっても、帰宅するとアパートのドア前に中身がぶちまけられてる。
しかもハトの死体とか混ざってる。

そして知らないうちに俺はハト殺しの常習犯&下着泥棒ということにされていた。
噂をまいたのは誰かすぐわかる。でも証拠がなかった。

ゴミを捨てられないっていうのは、みみっちいけど正直かなり精神的にこたえる。
特に生ゴミが古くなってくると部屋の中にあるのがすごくつらい。
耐え切れずにおばさんが起きる前に捨てるようにもしてみたが無駄だった。

何回目かに部屋の前にゴミぶちまけられたとき、おまわりさん呼んだが
やる気なさそーに見に来ただけで、
「なんかあなたが恨みかうようなことしたんじゃないですかー」
と逆に責められただけだった。

俺はだんだんゴミ捨て恐怖症みたいになって
なるべく生活ゴミを出さないようちまちま暮らすようになった。
コンビニ弁当を買ったら店を出てすぐそこらで立って食って、コンビニのゴミ箱に捨てて帰るとか
ゴミがちょっとでも出たらカバンに入れて持ち歩いて
大学やスーパーのゴミ箱に捨てる等していた
今考えるとノイローゼ入ってたと思う。

生活ゴミを出さないとなると野菜くずなんかももちろん出せないわけで
自炊しなくなった俺はみるみる不健康な顔色になっていった。

見るにみかねた友達数人がある日、アパートに肉や野菜を持って訪ねてきてくれた。
ゴミおばさんのことはもう相談済みだったから
みんな「ゴミは俺たちが全部持ち帰るから、今日ぐらいは腹いっぱい食えよ」
とこころよく言ってくれた。俺は泣いた

ホットプレートを出して、肉や野菜ややきそばを焼いた。
特に同郷の子がジンギスカンを持ってきてくれたのが号泣ものだった。本州来てから食ってなかったから。
メンバーは男5:女3くらいだったと思う。


しかし夜8時くらいになった時、ドアをガンガン叩かれまくった。
おばさんだった。

「女が中にいるんでしょー!」
「女の声がしたわよー!聞こえたわよー!」
「浮気者ー!アタシをもてあそんだのかー!」
「殺してやるー!」
とえんえん叫んでいる。

恐ろしさに全員フリーズした。
なんていうか、説明しにくいけどマトモな人と怒鳴り声の質が違う。
普通の人だと怒鳴ったとしても最低限セーブする一線があるはずなんだけど
完全にそれを超えた感じ。
メンバーの中には屈強な男もいたんだが、そいつも青ざめてた。
とにかく女の子を守らないとって感じで
無意識に男たちで輪を作って女の子を輪の中に入れて囲った。

おばさんは1時間ぐらい怒鳴ってたが、急に静かになった。
帰ったのか?と思ったが怖くて外が見れずにいた。
ドアスコープなんていう気のきいたものはなかったから、ドア開けて見なくちゃいけないし。

20分くらいして
「宅急便です。開けてください」って声がした。
明らかにおばさんの声。
もちろん開けるわけない。

その後も
「郵便局です」
「警察です」
「大家です。開けてください」
って手を変え品を変えしてドアをトントンしてくる。

しまいに
「タカちゃん、おかあさんよ、開けて」
って言われたときは気が狂うかと思った。
そんなのが明け方まで続いて、もう俺だめかもしれない。と思いはじめた頃
唐突に声がやんだ。


時計を見たら午前5時だった。
おばさんがゴミ捨て場に立つ時間が来たのだ。

まわりを見たらほとんど全員が泣いてた。
恐怖と安堵の涙だった。
なぜかみんな抱き合って泣いた。


その後俺は即引っ越した。
今まで住んでたとこより不便で高い物件ばかりだったが
これ以上あそこに住むくらいならバイト増やした方がましだった。

おばさんのことはあとでちょっとだけ電話で大家さんに聞いた。
やっぱりおばさんのせいで退去した人が
過去にも何人かいるらしかった。
バツ2だかバツ3だそうで、俺にいやがらせしてた当時は独身だったそうだ。

夏に起こった事件じゃないが
夏場になると怪談チックなせいか、つい思いだす話。