A男…大学の某サークルのリーダー格
B子…A男の彼女
C子…ずっとA男を好きだったサークルメンバー
D男…ずっとB子にあこがれていたサークルメンバー

上記のやつらが社会人になってからの修羅場。


A男は大学内サークルの主将格で、男気があって硬派な昔堅気の奴だった。
顔より男らしさで人気のあるタイプで、後輩に慕われていた。
A男の親は2chでよく言われる「毒親」ってやつらしく
ふだん無口なA男は酔うと親しい仲間に親の愚痴をこぼすことがあった。

A男父は女グセと酒グセが悪く、サイマーで賭け麻雀大好きで、鳶だがろくに働かないらしかった。
母親はといえばこれも酒好きで、働いておらず、A男の妹だけかわいがって
A男は露骨に差別されて育ったらしい。
そんな両親の援助を受けず、バイトと奨学金で大学まで進んだということが
A男の誇りだった。
酔うとA男はよく「自分の力だけで幸せな人生、幸せな家庭を築いてみせる」と言っていた。

卒業してしばらく経ち、A男は大学時代からの彼女であるB子にプロポーズした。
A男がちょこっと昇進したのと、B子の勤め先が経営縮小で
B子が転勤になりそうなことがきっかけだった。
B子プロポーズに大感激。
俺たち烏合の元サークル衆は祝福ムードで盛り上がった。

この時点ではB子は寿退社し、結婚してA男の社宅に入居予定だった。
2人で貯金を出し合い、サークル仲間をメインとした顔ぶれで
賑やかだがあまり金のかからない食事会を披露宴にして
式は2人きりでひっそり挙げ、入籍というのがプランだった、らしい。ここまでは。


ところが結婚が決まった途端、A男の言うことが二転三転する。
式は豪勢にやらなきゃいけないとか、できるだけ多くの人に祝ってもらってこその結婚だとか
披露宴は一流ホテルでやらなきゃミジメだし、それを望まない女は頭がおかしいとか等々。

A男は在学中からB子の親と親しくしていて
「自分の両親と縁が薄いぶん、親の愛情に飢えていた。あなたがたが本当の親みたいだ」
と言ってはばからず慕っていた。
俺なんかから見るとちょっと気恥かしかったがA男はふだんから熱血野郎だったし
言っても許されるキャラだったし、何よりB子とB子両親がほほえまししく受け止めてたから
別に他人がどうこう言う筋合いではなかった。

それが急にどうもおかしな雲行きになって
A男はB子親のことでB子に
「口出ししすぎ」「あつかましい」
「金を出すからって何もかも思い通りにできると思ってる」
「嫁にもらってもらう方の立場なのに、それをわかってない」
とブツクサ言うようになった。
B子が退社して無収入になったことでよけいA男はB子に好き放題言いはじめた。


そして今まで「自分の足で立ってるお前が好き」「意志のない女に魅力感じない」と言っていたはずのA男が
俺らの前でもブツクサブツクサ
「女なら口ごたえしないものだろ」
「しょせん女なんて男の庇護がないと生きていけない」
「女がえらそうに意見を言える世の中は間違ってる」
と言うようになった。

この時点ではまだ「B子とケンカしたのかな」「マリッジブルーか?」
と俺らは思っていた。


ブツクサブツクサ言うA男を見て喜んだのがC子だった。
C子は大学時代からずっとA男を狙っていたが、いわゆる当時のA男が一番嫌いなタイプ
「自分の意見がなくて芯がなくて、男によりかからないと生きていけないタイプ」
だったからむしろ避けられていた。
でもA男の最近の言動からして、そういう女がまさにタイプになった様子。
C子はグチグチ言うA男に、B子の悪口を共有することで急接近していった。

一方、自分の何が悪いかわからずオタオタするB子に近づいたのが
これまたずっとB子に気があったD男。
D男はしかもジャニ系イケメンで、B子両親とも面識があり、
「ボク次男坊だから婿養子OKです!」と昔からアピールしてたような奴で、条件は悪くない。
B子はD男に悩み相談するようになったりして傾いていった。


サークルの中心だったA男とB子がこうなってしまっては
今までのような同窓会状態はもう続かない。
だが男と女のことだしそれも仕方のないことだなと、最後にA男を誘って、D男抜きで
男たちだけの飲み会をした。

酔ったA男はいつもどおり、口が軽かった。
そこでわかったこと。
A男は結婚するにあたって、絶縁同然だった両親に「このくらいは報告しないと」と連絡をとったらしい。
だが両親とお気に入りの妹とで水入らず生活を送っていると思ってたのに
妹は数年前に行き先も告げずに毒親のもとから家出し、
毒父は仕事中の事故で障害者になり、母はあいかわらず無職で糖尿病になり
障害者年金だか生活保護だか知らないが、なんか国から出る金をもらって暮らしていたらしい。

A男はそれにショックを受け、電話口で泣かれて激しい罪悪感にさいなまれ
「俺が悪かった。ごめん、これからは俺の働きで養うから!」
と言ってしまったらしい。


それからA男は自分の最低限の生活費以外ほとんどすべてを親に仕送りする日々になった。
金を送るたび電話口で
「やっぱりお兄ちゃんは頼りになる」
「いい子だ、よくできた子だ。昔から頭もよくて自慢の子供だった」
「あんたさえいてくれれば何もいらない」
と言われ、それが気持ちよくて気持ちよくて、生まれてはじめて親に手放しでほめられて
A男は嬉しくてたまらなかったそうだ。

B子に「結婚式は豪勢にしろ」と言ったのも、B子両親の悪口を言うようになったのも
意見を言う女は生意気だというようになったのも、全部毒両親からの受け売りだった。
だらだら泣きながら
「親は絶対」「親は正しい」「子供を最後まで愛してくれるのは親だけ」
と言うA男は、気の毒だけど、宗教にハマった奴みたいに見えた。

さんざん説得したが無駄で、結局俺らの一人がA男に殴られ、うちどころが悪くて
不可抗力ながらも警察沙汰になり、説得は立ち消えになった。

やけになったA男はB子両親に毒づき、飼い犬に対して取り返しのつかないことをして
B子両親を怒らせ、永久に出入り禁止になった。
婚約不履行としてA男を訴えるという話も出たらしいがB子とB子母が泣いて止め、
ただの婚約破棄ということになった。

その後、A男はC子にも逃げられた。
A男が毒親の言いなりマシーンになって、あの頃の男らしかったA男とは別人になってしまったことと
退職して地元に戻って両親と同居すると言いだしたから。

B子はD男と結婚した。
D男はサークルではチャラ男と思われてたが、意外にまじめな働き者だった。
ついた職種も向いてたようで、結婚相手しても最良な相手だったらしく
本当に婿養子になり、子宝に恵まれて幸福そうにしている。
ちなみにD男も、A男と同等かそれ以上の毒親持ちだったらしいと後で聞いた。

俺はA男が故郷に帰るとき見送りに行こうかどうか悩んで結局行けなかった。
外見も性格ももう別人になってて見るのがつらかったし、
おまえ人生それでいいのかよって言ってしまわない自信がなかったから行かない方がいいかと思った。
あいつも今さら俺なんかに説教されたくないだろうし