今年米寿を迎えた祖父の、十歳頃の武勇伝。
 貧しい家で育った祖父は、同い年の中では小柄で細く、よく馬鹿にされたらしい。

 ある日、米屋の息子に「お前がそんなに小さいのは食べないからだ。この米俵を持って帰れたら、くれてやるよ」と
からかわれた。自分の体重より大分重い米俵など、持ち上げることすら出来ないと思ったのだろう。
 頭にきた祖父は農作業の手伝いで鍛えた体で米俵を担ぎ上げると、一度も地面に下ろすことなく立ち止まりもせずに、 およそ二キロ先の家まで持って帰った。


慌てた米屋の息子、父親に「○○(祖父)に盗まれた」と嘘をついた。
 米屋がお供を連れて怒鳴り込んでくるも、祖父は「お宅の息子との約束だ」と突っぱねた。
 米屋は「お前なんかが一人で担げる訳がないだろう、誰に手伝ってもらった? 父親か?」と威嚇。
 父親まで泥棒扱いされて再び頭にきた祖父、「じゃあ今から証明してやる」と米屋を引っ張って米蔵に向かい、蔵から
もう一俵担ぎ上げてのっしのっしと帰宅。
 呆然とする米屋に「お宅の息子は『持って帰れたら』くれると言った。なら二俵とも俺のもんだ」と返却どころか
上乗せを主張。
 発狂した米屋が子供の癖に生意気だ泥棒だ、と怒り狂う中、近所の人に騒ぎを聞かされた曽祖父が畑から帰宅。
 米屋と祖父から話を聞き、分かった、と言うと表情を一変。
「子供とはいえ、男同士の約束。そちらが違えるのは勝手だが、うちの子には命に代えても守らせる!!」と鬼のような
形相で一喝。
 普段、物静かで朴訥とした曽祖父のあまりの剣幕に血相を変えた米屋、慌てて落ち着け、落ち着けと繰り返した後に
「約束なら仕方ない。ただし二俵目は証明する為に使っただけだから」と言ってそそくさと一俵を荷車に積んで帰っていった。
 修羅場が去った事で気が抜け、へたり込む祖父の頭を撫でた曽祖父は、米が手に入った事より相手が大人でも主張を
貫いた事を笑顔で褒めてくれたという。
 以降、傲慢な米屋をやっつけた『二俵担ぎ』として祖父は馬鹿にされないどころか、一目置かれるようになった。
 しかし噂を聞いた人に「二俵も同時に担いで持って帰ったって本当か?」と問われ「一俵ずつだ」と答えると「なぁんだ」と
残念そうな顔をされて、悔しい思いをしたそうな。