高校の頃、やたらと特定の女子をえこひいきする数学の先生がいた。 
まあ、俺だってむさい男子高校生よりは可愛い女子高生の方がいいから、そこはまだ 
許せるのだが、ボディタッチがやたらと多いんだよな。 
尻なのか背中なのか、すごーく微妙な辺りに手を置いたりとか、体調不良で保健室へ 
行かせてくれという子に、ニヤニヤ笑いながら「生理か?」と聞いたり。 
なんか軍艦巻きみたいな頭の形をしていたこの先生には、「エロ軍艦」というアダ名が 
ついていた。 

当然、みんなからは嫌われまくっていたが、理系クラスの俺らが数学を無視することも 
出来ず。 
セクハラ以外は授業もわかりやすかったので、「可能な限り関わらないようにしよう」 
というのがクラスの暗黙の了解になった。 

冬休み中、同じクラスのA美と付き合い始めた俺は、三学期が始まって数学の時間が 
憂鬱になった。 
A美がセクハラ対象だったからだ。 
幸い、ひと月ほどは目立ったセクハラもなく、無事に過ぎたのだが。 

その日、A美は風邪をひいたらしく、朝から赤らんだ顔をしていた。 
「次の時間数学だから、先に保健室行っておけば?」と言う俺に、 
「ありがと。でも、たぶん大丈夫だから。昼から体育だし、数学終わったら保健室行くよ」 
と答えていたのだが、どうも授業中に熱が上がったらしい。 
とうとう、手を上げて「熱があるようなので保健室に行ってもいいですか」と言い出した。

するとエロ軍艦、薄ら笑いを浮かべてツカツカとA美の席まで来ると腰を折って、「よし、 
先生が熱を測ってやる」とA美の額と自分の額をくっつけようとした。
俺はかーっと血が昇って、 
「やめえや、センセ、そりゃセクハラじゃろうが。いっつも思うとったが、アンタちいと女子 
に触ろうとしすぎじゃろ!」 
と、エロ軍艦に指を突きつけて叫んだ。 

するとエロ軍艦、薄ら笑いをぱっと消して、「もっぺん言うてみい。わりゃあ」と低い声を 
出して脅しをかけて来た。 
エロ軍艦の目を見ながらもう一回、同じことを指摘してやると、二回往復ビンタを喰らった。 
俺にビンタを喰らわせて満足したのか、エロ軍艦はA美に「さっさと保健室へ行け」と 
吐き捨てるように言うと、俺に背を見せて黒板の前に戻ろうとした。 

俺は上履きを脱ぐと、手に持って、エロ軍艦の後頭部をアッパースイングではたいた。 
すると、何か黒いものが飛んだ。 
黒い物はくるくる回転しながら驚くほど飛び、教壇横のだるま型ストーブの上にぱさり、 
と落ちた。そして異臭を発しながら、チリチリと縮んでいく。 
エロ軍艦が、バルスで目をやられた後のムスカのような悲鳴を上げた。 
クラス中が爆笑の渦に巻き込まれていく中、俺だけが呆然と、熱で変形し焦げていく 
カツラとエロ軍艦の寂しくなった頭を眺めていた。 

俺は生徒指導室につれていかれ怒られたが、皆や他クラスからのセクハラ供述が助かりお咎めなしに終わった。
翌日からエロ軍艦は休み、そのうちに新しい先生に代わった。
どうも生徒から大多数のセクハラ行為があったと通告を受け教育委員会につれて行かれたようだった。 
ただ残念なことに、エロ軍艦の方が授業は上手だった。 

三十半ばになった俺は、最近生え際がちょっと気になっている。